リービ英雄著 革命聖地への旅「延安」 岩波書店
昨年は書評欄でリービ英雄氏の「延安」がよく取り上げられていた。「星条旗の聞こえない部屋」で新しい小説の世界を見せられた私は是非読んでみなければと勢い込んで手にとったのだが、各書評欄で絶賛されているほどにはのめりこめなかった。
「延安」はリービ英雄氏が革命聖地として中国の観光名所となっている延安を訪ねた紀行文学である。しかし、語り手の「ぼく」はいつも対象から離れている。生粋のアメリカ人であるリービ氏が日本語脳で中国農村をルポしているからなのか?というよりもリービ氏が自分の立場を持たないことに起因しているのではなかろうか。
「延安」は1934年から毛沢東が行った長征の終着地で、毛沢東は国民党軍の包囲網を自給自足経済を打ち立てることで耐え抜き、周囲の岩山は日本軍の攻撃に対する自然の要塞となった。毛沢東・周恩来らの共産党中央幹部は岩山の洞窟を住居とした。この頃、エドガー・スノーがやってきた。彼は「国民党軍の最後の機関銃をあとに」共産党の支配地域深くに入り込んだのだ。彼は紅軍の兵士たちにに囲まれ,紅軍の中からあごひげを生やした若い将校が出てきてスノーに問うた。
「Hello,are you looking for somebody?」
それがエドガー・スノーと周恩来との出会いだった。
けれども「ぼく」はエドガー・スノーのような「サヨクのジャーナリスト」ではない。
「革命」がこの地でどのように進行したのか、などということには視点はもたない。目に写ったものを正確に日本語で表現するだけだ。しかし、私は中国農村の貧しさはテレビドキュメントや映画で幾度も見た。彼らが今も洞窟に住み、毎日の煮炊きが洞窟の入り口付近の焚き火だったという事実もそんなに驚かない。
農民は革命で解放されたのか?という問いかけに農民自身は偉大な毛沢東主席のおかげで解放されたという。本当に解放されたのか?真っ黒な顔、抜けた歯…日本円にして8円の農民煙草、農民は今も貧しい。
「ぼく」自身の「解放されたのか?」の答えは何だろう。
ただ目に入ったものをそのまま書く。
ある日「ぼく」はTシャツにGパン姿の見るからに都市に住む白い顔の若者たちがカメラのレンズを至近距離に押し付けて農民の写真を撮っているのを見た。陽に焼けた黒い顔の農民は抗議することもなくただ黙って被写体になっている。
露店には「一杯二元」(日本円で約30円)の麺、案内役の運転手は「これは農民が食べるものだからあなたは食べない方がいい」という。
延安のメインストリートには携帯電話で話す人々が溢れ「ウェイ(もしもし)」の声がこだましている。
「共産主義は終わった」というのが「ぼく」の答かもしれない。
エドガー・スノーは共産主義が始まる時にやってきた。そして今共産主義は終わった。農村と都市の間に大きな格差を残して。
その格差を日本語で写し出すことが「延安」のテーマなのかな?
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